千葉地方裁判所 昭和45年(ワ)580号 判決 1974年7月15日
原告
国鉄動力車労働組合
右代表者
目黒今朝次郎
原告
国鉄動力車労働組合千葉地方本部
右代表者
篠原正男
原告
国鉄動力車労働組合千葉地方本部千葉支部
右代表者
中野洋
原告
中野洋
右四名訴訟代理人
新井章
外七名
被告
日本国有鉄道
右代表者
藤井松太郎
右訴訟代理人
田中治彦
外一名
主文
一、被告は原告中野洋に対し金一五万円およびこれに対する昭和四五年九月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告中野洋のその余の請求を棄却する。
二、原告国鉄動力車労働組合、同国鉄動力車労働組合千葉地方本部、同国鉄動力車労働組合千葉地方本部千葉支部の各請求をいずれも棄却する。
三、訴訟費用はこれを一〇分しその二を被告の負担とし、その余は原告ら四名の各負担とする。
四、第一項中原告中野洋の勝訴部分については仮に執行することができる。
事実
第一、当事者双方の求めた裁判
(原告ら)
一、被告は、原告国鉄動力車労働組合に対し金二〇万円、原告国鉄動力車労働組合千葉地方本部に対し金二〇万円、原告国鉄動力車労働組合千葉地方本部千葉支部に対し金三〇万円、原告中野洋に対し金三〇万円および右各金員に対する昭和四五年九月二六日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。
二、被告は、被告千葉鉄道管理局報「千葉だより」に別紙の謝罪文を掲載して千葉鉄道管理局の全職員に配布せよ。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
四、第一項について仮執行宣言。<後略>
理由
一被告が鉄道事業を営む公共企業体であること、原告組合が被告職員らで組織されている労働組合であり、原告千葉地本は被告の千葉鉄道管理局内の職員等で組織されている原告組合の地方本部であり、原告支部は被告の千葉気動車区の職員でもつて組織されている原告組合の支部であり、原告中野は原告支部の執行委員長であること、原告組合が被告と団体交渉を継続中、昭和四五年九月二五日に統一ストライキを実行することを決定し、千葉気動車区に斗争指導のため、役員を派遣したこと、被告職員の千葉気動車区長渡辺敏夫、同区首席助役岡部清らが昭和四五年九月二四日原告支部組合事務所前に立ててあつた組合旗四本を除去(原告らはこれを強奪というが、いずれにせよ、その違法性の有無については後に認定する。)したこと、同日午後四時三〇分ころ、右渡辺、岡部らが千葉気動車区にいた渥美、篠原、木村および原告中野らを正門外に連れ出し、その後翌朝七時にいたるまで正門その他の出入口を閉鎖し、被告職制および勤務者以外の者の構内立入を禁じ、各所に監視要員を配置したこと(組合事務所の使用禁止)、右原告中野が連れ出される際正門の鉄柵にしがみついて排除されまいとしたこと、その後同原告が救急車で千葉北部病院に運ばれたことは当事者間に争いがない。
二原告らは被告の右組合旗の除去、組合事務所の使用禁止および原告中野に対する行為はいずれも不法行為であると主張するのに対して、被告はこれを争うので判断する。
1 右当事者間に争いのない事実および<証拠>および弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができ、<証拠判断省略>。
(一) 原告組合は、昭和四五年春以降、被告との間で、同年春闘の際公共企業体等労働委員会において仲裁裁定を受けた賃金増額についての配分問題と「検修新々体制」「EB施行」などのいわゆる国鉄合理化問題について、中央段階において交渉を継続していたが、右二つの問題が絡んでなかなか解決しなかつたので、同年九月四日に全国代表者会議を召集して、右問題解決のため強力な行動を採ることを決め、九月一〇日から一二日まで第一次統一行動、二四日から二六日にかけて第二次統一行動を行うこととし、更に被告との交渉を継続した。原告組合はその後第一次統一行動の直前になつて都合によりこれを延期することとし、同月一六日臨時中央委員会を召集して、同月二五日列車の始発段階までに交渉がまとまらないときは同日の始発から四時間全組合員を結集してストライキを決行することを決定した。原告千葉地本は、原告組合の右中央委員会決定を受けて同月一九日拡大支部代表者会議を開き、原告組合中央本部から渥美玉二中央執行委員および木村忠一関東地評議長の派遣を受けて、右二名と篠原正男原告千葉地本執行委員長とが指導者となり闘争委員会をつくり、闘争拠点として千葉市黒砂台にある千葉気動車区(同区の構造は別紙一、二のとおり)の原告支部他二支部を決めストライキを行うことを決定した。そこで原告支部では、翌二〇日、拡大闘争委員会を開き、右決定を実行することを確認し、原告中野を含む役員が組合員に対し二五日のストライキに参加するよう説得するオルグ活動を開始した。
(二) 被告は原告組合との交渉を継続する一方、二五日のストライキにそなえて列車の運行の確保のための対策をたて、千葉鉄道管理局内では総武線、房総線などの気動車列車の運転拠点である千葉気動車区の重要性にかんがみ、同区の職員四七〇名のうち約三五〇名が原告組合員であることや過去に激しい組合活動がなされたことを考慮し同区でのストライキに対処して、正常な運行を確保するため、同月一八日ころから、同区の助役が職員に対してストライキに参加しないで正規の業務につくように注意するとともに、当日の勤務予定者には業務命令書を手渡し、「保護願い」を提出するよう説得に努め、更に同月二一日には千葉鉄道管理局長名で、職員に対し、ストライキに参加しないよう求めたビラを職員に渡したり、右ビラを同区の業務用掲示板に掲示する一方同日原告千葉地本に対してストライキの中止方を求めた申入書を出し、更に翌二二日、原告千葉地本に対して、同区の混乱を未然に防ぐため、「集会等を含めた具体的不法行行為が発生した場合は構外排除などの措置をとる」ことを申入れた。更に、ストライキ前日である九月二四日午前八時過ぎごろには、千葉鉄道管理局長田口通夫が同局運転部長今井饒を現地対策本部長として同区に派遣して千葉鉄道管理局員や同区の管理職などの対策要員一一三名および公安職員二〇名で構成する現地対策本部を発足させると共に同区構内で無用の混乱を避けるため千葉鉄道管理局長の指示もあつて同日は朝から当日勤務者および同区管理者の許可を得た者以外の立入禁止の措置をとり、同区の三ケ所の出入口や同区の周辺に対策要員を見張りに立たせたり、右趣旨の立札を数十個所に設置し、構内にスピーカーで右措置をとつたことを周知させ、職員の出入を制限する一方、同区長名義で原告組合らに対しても、同日午前一一時三五分ころ、同趣旨の通告書を出した。
(三) このようにして、被告職員の立入禁止の措置により、塀を乗り超えたり線路づたいに同区構内に入ることはできても通常の方法では出入りできず、出入口で追返えされたりして、同区構内には当日勤務者以外の組合員の出入りができなくなつた。被告職員はこのようにして同区構内の体制を固める一方、当時原告支部が被告から、組合事務所として借りて使用している建物の前に当日掲揚していた組合旗二本と檄(赤旗)二本につき同日午前一〇時ころから原告支部に対して文書あるいは口頭で右組合旗らを撤去するように求めたところ、原告支部が任意に撤去しないため、遂に午後一時三〇分ころ、千葉気道車区長渡辺敏夫および同区の助役らが対策要員、公安職員約四〇名と共に組合事務所の前にいたり、同事務所内にいた原告組合の木村関東地評議長、山岸原告支部執行委員ら組合員に対して同事務所内からの退去を要求すると共に、同区の岡部助役が組合旗二本と檄二本を抜きとり、対策要員に手渡して対策本部のある区長室に去つた。
(四) 渥美原告組合執行委員ら原告支部闘争委員会の指導者は、被告職員のこのような厳しい立入禁止の措置により、前述のように組合員やストライキ支援のための外来者が構内に入れない状態が続いたため、原告組合執行委員の渥美と原告千葉地本執行委員長の篠原とがこれに対して抗議するとともに、同日仕事が終つた列車乗務員のうち翌日勤務予定者を終了点呼を受ける前に当局側が連れ去つたという情報を得たので、乗務員を連れ去ることや組合旗の撤去に対して抗議するため、同日午後四時過ぎごろ、組合事務所付近の柵をのりこえて被告側の現地対策本部のある区長室付近までおもむいた。ところで、被告側の今井現地対策本部長や渡辺気動車区長はこれまで数回組合側に対し当日勤務者および許可を受けた者以外の立入禁止を通告していたが、日勤者の勤務終了時間が近づいたため、勤務時間終了後集会が開かれるなどして構内が混乱するおそれが強くなつたと考え、勤務時間終了後は構内にいた者を強制的に排除することを決めていたので、折柄区長室付近(別紙図面点)に来た右渥美、篠原に対して来訪の理由をきこうともせず同区区長は管理職二、三名およびヘルメットおよび警備服を身につけた公安職員二〇名を動員して両名の両手をとつたり背中を押したりして約二〇メートル離れた同区正面入口からそれぞれ強制的に排除した。
更に同区構内の自転車置場前(別紙図面点)にいた木村忠一、篠塚文夫(原告組合員)、原告中野に対しても現地対策要員や、前同様の公安職員約三〇名を動員して同人らをかこみながら同様にして抵抗する同人らを約一〇〇メートル連行し強制的に正面入口から構外へ排除した。他にも構内にいた組合員原告組合の弁護士に対しても同様にして排除し、許可を受けないで構内に入つた約八名の者を構外に出した。このため翌二五日の午前七時ころまで原告組合役員はもちろん組合員、打合せにきた弁護士なども、構内に入ることができなかつた。
(五) このような中で、原告中野は自転車置場から正面出入口まで公安職員に囲まれ、同職員から両腕をつかまれ、背中から腕をまわされて身体の自由を奪われながら、連行されて構外へ排除されようとしたが、出入口付近で公安職員の手がゆるんだわずかなすきに門扉の一方に両手および足を固くからめてしまつたため、公安職員が他方の門扉を閉めようとした際、これに原告中野の腕がはさまつてしまい、門を閉めることができず、そのため公安職員約一四名が原告中野を取りかこみ、その腕を無理にはずして同原告の身体をかかえるようにして構外へ排除した。この結果原告中野は加療約一週間を要する右頸部、前胸部、腰部などの打撲症を負い、救急車で千葉市内の千葉北部病院へ行き治療を受けた。
2 ところで原告らは右各行為は原告組合の正当な団結権、団体行動権を侵害する違法な行為である旨主張し、他方被告は右各行為は被告の施設管理権に基づく正当なものである旨主張する。
被告が同区の施設管理権を有することは当事者間に争いがない。しかしながら、右施設管理権が労働組合に対して行使される場合は、一般に我が国の労働組合は企業別労働組合が多く、日常的な組合活動は使用者の施設の一部を利用してなされ、これにより組合の団結権が支えられているものであるから、右の組合活動を不可能にさせるような行使は特段の合理的理由がないかぎり許されないものというべく、これを換言すれば、施設管理権の行使は組合の団結権に基づく組合活動との関係で調和的に制限されるものと解され、このことが、法律上保護される団結権等の実質的保障となるものである。本件において、被告は被告施設内の建物を原告支部に組合事務所として使用すべく貸与を認めているのであつて、右事務所が組合活動の本拠となり、右事務所を中心として組合活動が行われているものとみるべきものであるから、右組合活動との関連において、組合員が前記気道車区内の他の施設をある程度利用したり、部外者が組合活動支援のため組合事務所などの施設に立入ることを被告職員が制限することは、特に施設の管理維持のためや業務遂行などの合理的理由がないかぎり、許されないものといわなければならない。被告と原告千葉地本との間に結ばれている組合事務所便宜供与協約も施設管理権の行使については右のように制限して解釈しなければならない(施設管理権の解釈として、右の制限は無いとする被告の主張は採用しない。)。
そこで、本件各行為の違法性について個別的に検討する。
(一) 組合旗の撤去
組合旗は組合員の連帯感を深め、団結心を強める機能を有し、これを掲揚することによつて、同時に組合活動(団体行動)の本拠の存在を示すものと理解される。したがつて、原告支部が組合事務所の前にこれを掲揚することは、原則として、組合活動上自由であり、被告としても合理的理由がないかぎり原告支部の承諾なくして撤去することは許されないものといわねばならない。<証拠>によれば前記組合旗の撤去は労働関係事務取扱基準規程の第一六条、第一七条に基づいて無許可の掲示類に該当するものとしてなされたことが認められる。組合旗の掲揚はもとよりその性質上掲示板に貼布するものではないから右条文の「掲示類」とは解されないが、かりにそのように解しうるとしても前掲各証拠によれば、右規程は被告の職員局長の通達であつて、原告組合と取り決めた労働協約ではないことが認められるのであつて、労働組合の意思は入つておらず、組合を直接拘束するものではない。また前掲各証言のうちには、組合旗の掲揚が被告の業務に差支えるものであり、被告の撤去はこれまでも行なわれてきたものであり、本件においても後日返還を申入れたにもかかわらず原告支部が受取りを拒否している旨の証言があるが、<証拠>によれば、組合旗の掲揚場所は一般の業務遂行の場所からはかなり離れたところにあり、組合事務所や理髪に行く場合でなければ組合旗を認めることのできない場所であり、その掲揚が直接業務に支障をきたすとは認めることができず、またこれまでに組合旗の撤去されたことがあつたこと、また本件において後日返還を申入れたことがあつたとの事実は何ら組合旗の撤去の合理的理由を示すものではない。しかして他に合理的理由が認められない以上、被告職員の組合旗撤去は、原告支部の団結権などの侵害として違法な行為といわざるをえない。
(二) 原告組合役員らの構外への排除
原告組合らが気動車区構内にある組合事務所を拠点として組合活動をすることに対して、被告としては合理的理由がないかぎりこれを容認すべきものであることはさきに説示したところである。本件において、被告職員が組合事務所を拠点として組合活動をする原告組合役員らを構外に強制的に排除し、組合事務所を長時間使用できない状態にさせたことは、合理的理由がないかぎり違法であるといわざるを得ないところ、被告はその行為の正当性として、過去の先例や、原告中野が千葉県反戦青年委員会の議長であつたことなどを挙げ、同区構内が非常に混乱するおそれがあり、かつ原告組合らが予定しているストライキは法律上禁止されている争議行為であるから右ストライキを阻止するための措置として、また気動車区の業務を遂行するため被告は前記の行為に及んだものである旨の主張をしている。
よつてこの点を判断するところ
(1) <証拠>によれば、本件の前年である昭和四四年四月一七日に、原告組合員が同区構内で行進、集会を行なつたのち、午前零時ころから午前六時すぎころまで検修詰所に約八〇名の者が入りこみ(その間午前四時過ぎころ、同区の管理職が不穏な気配を感じて千葉県警の公安機動隊の派遣を要請したこともあつた。)組合員が出ていつた検修所は室内が混乱し、石、消火器などが放置され、ロッカーなどで造られたバリケードが残置されていたこと、更に同年六月二八日にも、充電室の二階の整備掛詰所の室内が原告組合員によつて乱され、さらには臨時雇用員が同区の助役に乱暴を働いたことがあつた事実を認めることができる。これらの事実を被告は過去における先例というもののようであるが、<証拠>によれば、四月一七日の事態では、原告組合員が検修詰所に入つたのは雨やどりのためであるとも窺えないことはなく、結局のところ組合員は自主的に同所から出ていつたのであり、バリケードなどが造られた室内の混乱も好ましくないことではあるが、警察の出動に誘発されたものと考えられ、そもそも、組合員が同室に入つたことは同区の業務に影響をあたえるものではなかつたことが認められ、(当時同区長であつた渡辺もその旨を供述している)六月二八日の事態においても同区の業務に影響を与えたり器物を損壊したりしたという証拠はない。したがつて右先例の存在によつて、被告職員の組合事務所の使用禁止の行為を正当化することはできない(被告は本件の翌年の昭和四六年五月一七日の事例についても証拠を提出しているが、右事例においても、組合事務所の使用によつて混乱が生ずるに至つたと認めるべき証拠はない。)
(2) <証拠>によれば、原告中野は当時千葉県反戦青年委員会の議長であつたことが認められ<証拠>によれば、反戦青年委員会がかなり激しい行動をするという新聞報道があつたことが認められる。しかしながら本件の九月二五日において、右委員会がどのような形で原告組合の闘争に対して参加するかという点について何一つ証拠がないのであるから、原告中野が右委員会の議長であり、右委員会の行動について右の風評だけで、原告支部組合員らによる過激な活動があるとして、これを防止するためには組合事務所の使用およびこれに伴う構内立入禁止の措置をとらざるをえなかつたと、直ちにいえないのである。
(3) 公共企業体労働関係法第一七条は公共企業体に対し争議行為をすることを禁止しており、右規定によれば原告組合員らは被告に対し、争議行為をすることを禁止されているのであるが、そうだからといつて予想されるストライキに対抗して、組合事務所の使用を禁止しなければならない事情は認められない。
以上の検討からして、被告の構内立入禁止の措置、組合役員らの強制排除は、施設管理権の濫用といわざるをえず、組合事務所の使用権の侵害であつて、ひいては原告組合の団体権、団体行動権を侵害する行為であり違法なものである。
(三) 原告中野に対する暴行傷害
前記(二)で判断したように、被告の原告中野を含む組合役員の強制排除は違法であり、原告中野は右排除に抵抗して被告側の公安職員との衝突によつてその傷害が生じたものであるから、原告中野にはその責はなく、被告職員にその違法性がある。
よつて、被告職員のなした各行為は違法であり、不法行為となる。
3 被告の千葉鉄道管理局長田口通夫が、同局運転部長今井饒を千葉気動車区へ現地対策本部長として派遣したことは当事者間に争いがなく、また前記1で認定したように右今井が対策要員および公安職員を指揮して前記各不法行為を行なわせたものであるから、同局長らの使用者である被告は民法七一五条によつて右不法行為の責任を負わなければならない。
三したがつて被告は右不法行為によつて原告らが損害を受けた場合はその賠償をなす義務があるところ、
1 原告中野を除く原告三名に関して、被告は原告千葉地本同支部は原告組合の構成部分にすぎず独立の損害賠償請求権を有しておらず、また原告三名は客観的名誉の侵害はないから原告ら三名の請求は失当である旨の主張をしている。
しかしながら、法人でない社団と認められるためには、「団体として組織をそなえ、多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることが必要である。」(最高裁昭和三九年一〇月一五日判決民集一八巻八号一六七二頁参照)ところ、<証拠>によれば、原告千葉地本および原告支部は、いずれも原告組合の下部組織ではあるが、右要件をそなえていると認めることができ、してみれば原告両名は社会生活上独立した団体として、独自に損害賠償請求権を有することもできると考えられる。
原告三名はその損害として、いずれも団結権、団体行動権の侵害および名誉権の侵害を主張している。(一)団結権、団体行動権の侵害行為については、前述のとおり認めることができるが、この団結権、団体行動権の侵害については、本件事件の発端が原告組合のストライキ指令に端を発し、原告地本、および原告支部が、その下部組織として一体として働いていることからすれば、原告地本および原告支部が、原告組合とは別個に損害を受けたかどうか疑問の存するところでもあるが、右侵害によつて原告三名がそれぞれにどの程度の財産的損害があつたかは主張立証はなされておらず、財産的損害については認めることができない。(組合旗自体については、被告から既に返還の申出がされていることは既に認定したとおりである。)(二)名誉権の侵害について判断するに、被告の不法行為とは組合事務所への立入禁止の措置をとり原告三名を代表するような中央執行委員、執行委員長などの組合役員を構外へ強制的に排除したり組合旗を除去するなどの行為であり、右が違法なことは既に判断したとおりであるが、右事実からしても、社団である原告三名の社会的名誉が低下し、侵害を受けたと認めることはできない。仮に侵害されたとしても、金銭をもつて慰藉すべき性質のものとは認められない。また原告支部の名誉毀損についても謝罪広告をすべきような名誉権の侵害の発生ならびにその現存は認められない。なお、団結権、団体行動権に対する侵害のうち無形の損害については、労働法上の問題であつてただちに金銭賠償という形で解決すべき問題ではなく、公共企業体等労働委員会のあつせん調停等により、当事者が自主的に健全な労働慣行を形成していく過程において解決するのが本筋であり、このことを考えると、本件全立証によるも、右無形の損害のうち金銭賠償を相当とする損害を認めることはできない。
2 原告中野に関して判断する。同原告が被告の不法行為により肉体的ならびに先進的な苦痛を受けたことが認められることは既に認定した事実からして明らかであるが、その行為の態様、暴行の原因、態様、受傷の部位程度、支部委員長として抵抗の意図を表明せんとした心情、しかしながら、門の鉄柵にしがみつくことは、傷害事故の発生を誘発することは当然予想されうべきことなどの前記認定の諸般の事情を考慮すると、原告中野は右肉体的ならびに精神的な苦痛の慰籍のために金一五万円の支払を受けるのが相当である。
四以上の判示によれば、被告はその不法行為責任により、原告中野に対し金一五万円、およびこれに対する本件不法行為の日以降である昭和四五年九月二六日から右支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
よつて原告組合、同千葉地本、同支部の各請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、原告中野の請求は、右の限度で理由があるので認容し、その余の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条九二条、九三条一項仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(渡辺桂二 浅田潤一 小松峻)
<謝罪文、別紙略図一、二省略>